はじめに

 和歌山県は、昔から「紀州木の国」と言われるほど、豊かな森林に恵まれており林業も盛んで、森林はより身近な存在として地域社会の人との生活と深い関わりを持っていました。2004年には「紀伊山地の霊場と参詣道」が世界遺産に登録されるなど、森林が「文化的景観」という視点から、高く評価されています。 さらに、近年は、森林の持つ二酸化炭素吸収機能や、木材が環境に優しい資材であることなど地球環境保全の観点から森林の潜在的な価値がおおいに注目を浴びています。
 しかしながら、生活様式の変化、外国木材の輸入、木材代替物の普及等により、林業生産性が悪化し、森林所有者の林業経営意欲は大きく減退しています。このため、森林の手入れも行き届かず森林の荒廃が進行しています。このままでは、森林の公益的機能の低下等により、県民生活への影響が懸念される状況となっています。
 本懇話会では、平成17年4月、和歌山県議会自民党県議団会長から委嘱を受けて、森林の持つ多面的な機能、県民の森林に対する理解の醸成と県民参加による森林環境の保全の取組みのあり方について検討を重ねてきました。
 検討の結果、森林を次の世代へ健全な状態で引き継いでいくためには、森林環境の保全を県民全体で支える必要があるということで意見が一致し、そのための持続的なシステムの構築が必要との共通認識に至りましたので、今般、中間報告として取りまとめたところです。
 本県の豊かな森林を県民とともに守り育てるための取組みの必要性や施策、その財源のあり方などについて、なお検討を重ねるつもりですが、県民各位においても活発な議論が展開されることを期待するものです。

1.森林の有する公益的機能について

森林は、木材生産のほかにも、水源かん養、土砂流出防止、土砂崩壊防止、保健休養、野生鳥獣保護や地球温暖化防止における吸収源などのいわゆる公益的機能(その恩恵が森林所有者のみにとどまらず、広く他の人々にも及ぶような森林の多面的な機能)を持っています。
このような森林の公益的機能について林野庁の試算方法を用いて本県で推計したところ、森林の公益的機能の評価額は、本県では年額約1兆円と試算され、県民1人当たりに換算すると97万円程度となります。

2.森林の現状について

本県の森林面積は363,707haで、県土総面積の77%を占めています。森林率では、全国第6位の森林県です。
また、民有林が森林の95%を占め、スギやヒノキ等の人工林率は61%となっています。

3.増加する荒廃森林

荒廃する森林がもたらす影響
本県の森林については、林業採算性の悪化などを背景に間伐などの手入れの行き届かない荒廃した人工林が増加しつつあります。
間伐されず放置され荒廃した森林は、景観を悪化させるとともに、雨が降ると林内の土壌が流出し、土壌の流失による保水機能が低下したり、また山崩れが起きやすくなります。また、土砂災害や洪水、渇水、鳥獣の餌となる生物が少なくなることによる獣害の発生など、水利用などの生活環境への影響や農作物などに大きな影響を与えています。
里山林では、生活文化の変化により里山林の荒廃や、放置され荒廃する竹林、拡大する竹林による森林や農地への侵入問題が起きています。

困難な森林の管理
かっての森林は、森林所有者による林業生産活動により、適切な施業が行われ、自ずと管理されてきました。しかし、近年では林業収益率の低下などから、施業意欲の減退を招き、放置される森林が増えています。また、集落周辺のいわゆる里山林では、自ずと適切な管理となっていた生活用途への利用がなされなくなり、放置され荒廃しています。
今日の林業のおかれている状況や里山林の利用の変化を考えると、森林所有者や関係者のみの努力では、森林を健全な状態で管理をし続けるには困難な状況にあり、また、それを支える公的資金にも限界があります。

4.県民参加による森林整備

森林を健全な状態に保ち、その機能を持続的に発揮させることは、県民全体に関わる問題であると考えます。
そのため、今後とも、森林所有者に適正な森林整備を働きかけていく必要はありますが、森林所有者や林業関係者のみの問題としてではなく、県民生活に大きく影響のある森林の持つ公益的機能の維持保全の観点に立ち、森林の恩恵を享受している県民全体が、森林を県民共通の財産であると認識し、森林づくりを自らの課題と捉え、県民全体で取り組んでいくことが重要であると考えます。

税方式導入の必要性と意義
森林環境の保全施策を円滑に推進するためには、一定の財源が継続的・安定的に確保される必要があること、森林の持つ公益的機能の恩恵は県民全体に及ぶことなどから、広く薄く県民が負担する形の「税方式」の導入を図る必要があると考えます。
税方式による財源で実施する施策は、具体的には、
(1)和歌山県らしい森林環境の保全などの事業
(2)子どもたちへの森林環境教育も含めた啓発などの事業
(3)森林状況等を広く県民に伝えるための情報発信
などの事業を基本にするのが適切であると考えます。

課税の仕組み
施策の事業効果は広く県民全体に及ぶものであることから、広く公平に、基本的に等しく負担していくという課税の仕組みが適当であると考えます。
課税の仕組みとしては、
(1)県民税の均等割に上乗せする方式(県民税均等割超過課税方式)
(2)水道料金に上乗せする方式(水道課税方式)
が考えられます。
施策の趣意や課税事務のコスト面から、両方式を比較検討した場合には、水道料金に上乗せする方式という課税方式ではなく、県民税均等割超過課税方式がより適合性が高いものと考えます。
さらに、個人県民税均等割では、生活保護受給者や低所得の障害者等について非課税措置が設けられており、超過課税の場合も低所得者等への配慮が可能となります。

留意すべき事項
・新たな課税が県民にとって過度の負担とならないよう、適切な負担水準の把握に努め、税率の決定においては県民の合意形成を図ることが重要であると考えます。
・超過課税による税収は、森林環境保全のための財源という位置づけを明確にするため、基金として運用していく必要があります。
・時限的な課税期間とし、一定の期間を経た後に、負担のあり方、使途、あるいは基金システムの見直しを行いながら取組んでいくことが望ましいと考えます。

参考
他県の森林環境税等の税率(県民税均等割超過課税)

県名 個人(年額) 法人(資本等の金額に応じ)
鳥取 300円 600円~24,000円
高知 500円 一律500円
岡山、愛媛、鹿児島
熊本、島根、山口
奈良、大分
500円 1,000円~40,000円
兵庫 800円 2,000円~80,000円
福島 1,000円 2,000円~80,000円

詳しい内容は、下記のファイルをダウンロードして頂ければご覧になれます。
「和歌山県議会自民党県議団森林環境税懇話会 中間報告書」.pdf(2.3MB)
「他府県の森林環境税等の導入状況」.pdf(12KB)
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