県民参加による森林整備

(1)県民参加による森林整備の芽生え
本県の森林は、戦後の積極的な植林活動等により人工林が多く、かつ豊富な森林資源を有しているとともに、私たち県民の生活に有形無形の効果を与えています。森林を健全な状態に保ち、その機能を持続的に発揮させることは、県民全体に関わる問題であると考えます。
これまでのように、森林所有者等の行う林業生産活動により健全な森林が造成され、森林の機能が維持されることが本来望ましいものでありますが、林業を取り巻く厳しい情勢の中、すべての森林整備を森林所有者の自助努力に委ねることには限界があります。そのため、今後とも、森林所有者に適正な森林整備を働きかけていく必要はありますが、森林所有者や林業関係者のみの問題としてではなく、県民生活に大きく影響のある森林の持つ公益的機能の維持保全の観点に立ち、森林の恩恵を享受している県民全体が、森林を県民共通の財産であると認識し、森林づくりを自らの課題と捉え、県民全体で取り組んでいくことが重要であると考えます。現在、「緑の募金」、「緑の孫基金」「世界遺産の森林を守ろう基金」、「企業の森」、「市町村等が行っている水源の森基金」など、それぞれの目的を持った寄付金等により、森林環境保全に向けた取り組みを行っているところです。
これらを以下に示しておきます。

本県における森林環境保全の取組み

緑の募金
平成7年制定の「緑の募金法」により、森林や緑に対する国民の関心を森林整備や緑化推進等の活動に結びつけるための取り組みとして、毎年春(3~5月)と秋(9~10月)を中心に緑の募金活動を実施。
平成15年度の募金額は、2,166万円で、集められた募金については、地域における公園や街路等の緑化、学校の緑化、ボランティア団体等による森林づくり、あるいは緑や森林の普及啓発等に活用されている。

緑の孫基金
孫の代まで健全な森林環境を保つという趣旨のもとで、孫や子供の誕生、あるいは成人、結婚等の記念にまた、森林環境保全に賛同する方々から募金を募り、記念植樹を通じて、環境保全意識の高揚、都市住民等との交流を図り、次代に引き継ぐ豊かな森林づくりを進めることを目標としている。
【植樹】

時  期 平成16年4月 平成16年4月 平成17年4月 平成17年4月
場  所 高野町高野山 高野町高野山 高野町高野山 高野町高野山
面  積 0.2ha 1.0ha 0.2ha 2.0ha
植栽本数 187本 1,000本 200本 1,100本

世界遺産の森林を守ろう基金
「紀伊山地の霊場と参詣道」が平成16年7月に世界遺産に登録されたことを受けて、世界遺産の文化的景観のひとつである森林を保全する目的で設立されている。
インターネットによる申し込みを中心に広く全国から募金を募集し、世界遺産周辺の森林景観維持・管理経費を該当する市町村に交付する。
ホームページ:http://wiwi.co.jp/wakayama-ryokusui/sekaiisan/

企業の森
環境貢献に関心の高い企業や労働組合、NPOなどの団体に県内の豊富な自然環境を活用し地域の人々とともに環境保全活動に参画してもらうものです。
具体的には、「地球環境保全の森」や「世界遺産の景観を守る」等の目的で県内の荒廃した森林を無償で貸し出し、それらの森林において企業などが費用を負担し、森林環境保全に取り組んでもらう制度。
現在では、9つの団体が森林保全活動に参画し、活動面積が約60haとなっている。
(森林保全活動を通じて、企業のイメージアップに役立つとともに、環境貢献活動の取組みが、社会全体の環境保全に役立っている事例)

水源の森基金
貴重な水資源の安定供給を図るため、山林を取得して水源林を整備したり、水源保全のための普及啓発活動を行うために水源林基金等が全国で設立され、水源地の森林整備等に寄与している。
<本県での基金事例>
○白浜町「水源の森基金」平成10年2月基金設置
目的:水源かん養林の購入、育成等により、水源の保全を図る
○清水町「水源の森基金」平成10年12月基金設置
目的:水源林として、森林の持つ公益的機能とその維持を図る
○富田川治水組合「豊かな水資源保全基金」平成13年2月基金設置
目的:水資源の安定的供給を図るために、水源かん養林の保全、取得
○那智勝浦町「那智の滝水資源保全事業基金」平成13年3月基金設置
目的:名瀑那智の滝の水資源と美しい自然景観の保全

企業の森・労働組合の森

(2)県民参加を促すためのさらなる方策

1.費用負担の手法
前述のとおり、和歌山県の試算によれば、森林の公益的機能の評価額は年間1兆359億円とされています。
この森林が荒廃し、森林の持つ公益的な機能の低下が確実に進行していることから、県が今後、森林整備などの新たな森林づくりを着実に進めていくためには、一定の財源を安定的に確保する必要があります。基本的には、国庫補助負担金制度を含む既存制度の活用が可能な施策について、まずその活用を図るべきですが、制度が活用できない施策も数多くあり、新たな費用負担の検討が必要になります。
新たな負担を求める場合には、受益と負担の原則の観点から税制度が想起されますが、それ以外の歳入手法の活用についても十分検討せねばなりません。後者は具体的には、「分担金」、「寄付金」、「使用料、手数料」をさします。
このうち「分担金」については、不特定多数又は地方自治体の全域に利益が及ぶ場合には、徴収できないとされていることから適当ではありません。
次に、「寄付金」については、県民が自発的意志に基づき、地方公共団体の行政活動に資するため特定の負担をする金銭であり、極めて重要な役割を果たすものですが、収入源としては不安定で、補完的な財源としてはともかく、主要な財源としては適当でないと考えます。
また、「使用料」は公の施設の利用に、「手数料」は特定の者に提供するサービスの対価としてそれぞれ負担を求めることができますが、森林の持つ公益的機能の恩恵は、県民全体に及ぶことから、これを財源とすることは困難であると考えます。
なお、「募金」については、森林づくりに対する県民の参加や理解を促すうえで、有効な手段と考えられますが、その安定性や規模の点から、中心的な手法とは成り得ません。
したがって、税制度以外の手法では歳入の安定性、規模などの点で問題があります。森林環境の保全施策を円滑に推進するためには、一定の財源が継続的・安定的に確保される必要がありますので、広く薄く県民が負担する形の「税方式」による手法が最もふさわしいものと考えます。

2. 税方式導入の必要性と意義
森林の荒廃による土壌の流出や生態系への悪影響を改善し、水源かん養機能、土砂流出防止機能及び大気保全機能など、森林の持つ公益的機能を維持していくためには、県民一人ひとりが森林の重要性を理解し、森林環境の保全に積極的に関与するという意識を高める必要があります。
そのための具体的な方法として、県民参加という手法により新たな森林環境の保全施策を実施し、豊かな森林環境を守り育てていくことに、税方式導入のより積極的な必要性と意義が存在するものと考えます。よりはっきり言えば、森林環境の保全を進めるために、広く県民が負担し合う新たな税方式の導入を図る必要があると考えます。
税方式による財源で実施する施策は、具体的には、

(1)和歌山県らしい森林環境の保全などの事業
(2)子どもたちへの森林環境教育も含めた啓発などの事業
(3)森林状況等を広く県民に伝えるための情報発信などの事業

を基本にするのが適切です。なぜなら、森林の恩恵を享受し将来世代に承継していくためには、県民が一体となって、森林環境の保全活動に参加していけるような仕組みづくりや取組みを行っていく動機付けとなりうるからです。その結果として、森林を県民共有の財産として県民全体で守り育てていくことが期待されると考えます。
特に、森林は森林所有者の私的財産でありながら、様々な公益的機能を発揮する公的な資産であるということ、森林環境の保全には世代を超える多くの歳月と労力等を要するという特徴があることなどについて、より多くの県民に理解を深めていただく取組みが重要と考えます。

3.課税の仕組み

ア)仕組みを検討するに当たって
森林環境の保全施策に必要な費用を地方税制度により調達する仕組みを検討するに当たって、まず地方税の一般原則として求められる「応益性の原則」あるいは「負担分任の原則」を念頭におく必要があります。
「応益性の原則」とは、地方税は各住民が受ける利益に応じて課税するのが望ましいという考え方で、また「負担分任の原則」とは、できるだけ多くの住民がその経費を負担すべきであるとする考え方、あるいは住民の自治意識を高めるためにもできるだけ広く住民の負担を求めることが適当であるとする考え方です。
こうした地方税の一般的原則に照らしてみると、施策の目的は森林の持つ公益的機能を高めることであり、その事業効果は広く県民全体に及ぶものであることから、地域社会を構成する全ての住民や法人が、広く公平に、基本的に等しく負担していくという課税の仕組みが適当であると考えます。
また、新たに税を負担することで、森林の恵み(公益的機能)についての理解が深まり、積極的に森林環境の保全に参画しようとする意識が高まることが期待できます。

イ)税負担の仕組み
新たな課税の仕組みとしては、①県民税の均等割に上乗せする方式(県民税均等割超過課税方式、②水道料金に上乗せする方式(水道課税方式)が) 考えられます。
これらの方式は、特定の施策の財源として創設されるところは同じですが、県民税均等割超過課税方式は、その受益として森林の持つ公益的機能全般を念頭におくものであるのに対し、水道課税方式は、森林の持つ公益的機能のうち特に水源かん養機能に着目したものであるということができます。
水源かん養機能に着目するならば、上水道、簡易水道、工業用水あるいは農業用水などの使用者に負担を求める方式が考えられます。この場合、法定外税として、従量制課税の方式で水道料金に上乗せすることになります。しかし、和歌山の主要河川の水源は必ずしも県内にないため、考え方と課税技術との両方からクリアすべき多くの課題があります。
具体的な問題点としては、

・本県民に課した税をもって、他県にある水源の保全をせざるを得なくなること
・受益と負担の関係を明確にするためには、河川の流域毎に束ねる必要があること
・水道事業者等に特別徴収してもらう必要が生じること
・市町村等の間に水道料金格差があるため税率が一定であれば、県民の負担度合いに差が生じ理解を得られにくいこと

などがあげられます。これに加えて、和歌山県は比較的水不足に悩ませることの少ない地域ですので、森林の水源かん養機能のみに着目して課税するという考えは、和歌山県の税としては適切でないと考えます。
森林環境の保全施策によって得られる便益は、単に水利用にのみ限定されるわけではなく、水以外にも県民があまねく安定的に享受するものとして捉えられるものです。
よって、新たな税の仕組みの検討に係る趣旨が、森林の持つ公益的機能全般の保持、増進を目的とする施策の財源確保にあるという点を踏まえれば、直接的な水利用との結びつきよりも、県民による幅広く公平な負担を重視することが適当と考えられます。
こうした観点や課税事務のコスト面から、両方式を比較検討した場合には、水道料金に上乗せする方式という課税方式ではなく、県民税均等割超過課税方式がより適合性が高いものと考えます。
さらに、個人県民税均等割では、基本的には個人全てに課税されるものですが、担税力のない方や担税力が著しく弱い方についてまで負担を求めるのは税負担の公平性の見地から好ましくないことから、生活保護受給者や低所得の障害者等について非課税措置が設けられています。

ウ)留意すべき事項
この超過課税による税収は、森林環境保全のための財源という位置づけを明確にするため、基金として運用していく必要があるでしょう。このことによって税源の使途の明確化がはかられ、また単年度予算に縛られずに長期的に有用な事業に財源を投入することができます。もちろん、基金システムの運用の透明性が十分に担保されなければならないことはいうまでもありません。
また、法人を含む県民から広く負担を求めようとするときには、施策に必要な財源の確保を図るという観点を考慮しながらも、新たな課税が県民にとって過度の負担とならないよう、適切な負担水準の把握に努め、税率の決定においては県民の合意形成を図ることが重要であると考えます。
なお、森林環境の保全には、継続的な取組みが必要であり、短期間では計画的に進めるという面から適当でなく、また、あまり長期間では社会経済情勢の変化に対応できないと考えられることから、時限的な課税期間とし、一定の期間を経た後に、負担のあり方、使途、あるいは基金システムの見直しを行いながら取組んでいくことが望ましいと考えます。


はじめに森林の有する公益的機能について森林・林業の現状等について増加する荒廃森林 森林整備への取組み県民参加による森林整備おわりに