平成19年3月29日
和歌山県議会自民党県議団
紀の国森づくり税条例は、本年4月より施行されますが、その使途について提案者の意志が反映されるよう
自民党県議団では、仁坂知事に種々の森林・林業対策の要望を行っております。
そのうち花粉症対策については、多くの県民から期待されていることから、昨秋来、竹中大阪医科大学教授
の御教示をいただきながら積極的に研究してまいりました。その結果、「ハイリスク児を看護すること」が現
時点で最も効果的であると考えられますので、県議団では当局に対してその実施を強く求めるとともに、効率
よく実施するための具体的方法について独自に検討することになりました。
今般、その研究を県内で花粉症研究の実績を挙げているNPO日本健康増進支援機構に委託しましたところ、
第1回研究会がさる3月27日に開催されましたので、御報告申し上げます。
委託機関 NPO日本健康増進支援機構
理事長 榎本雅夫(日赤和歌山医療センター耳鼻咽喉科部長)
〒640-8269和歌山市小松原通3丁目68 TEビル3階
田中・遠藤法律事務所内
電話:073-428-3818、FAX:073-428-0053
委託内容
「スギ林と共存する地域づくり」特に「ハイリスク児の看護」の具体的方法
委託期間 約4か月
第1回研究会
と き 平成19年3月27日(火)午後5時から
ところ TEビル4階会議室
和歌山市小松原通3丁目68番地
参加者 尾崎要二 自民党県議団会長
中村裕一 自民党県議団幹事長
榎本雅夫 日本健康増進支援機構理事長
古川福実 和歌山県立医科大学教授
山田和子 和歌山県立医科大学看護学部教授
オブザーバー
田中昭彦 日本健康増進支援機構副理事長(弁護士)
【参考資料】 スギ林と共存する地域作りに関する研究
NPO日本健康増進支援機構
理事長 榎本雅夫
近年、日本を含む先進諸国におけるアレルギー疾患の増加は著しく、発展途上国においてもその増加傾向が
みられている。特に、本邦固有のスギ花粉症の増加は著しく、その有病率は16.2%と推定されている。この有
病率は1998年の調査であるので、現在はより高いものと考えられる。私達は和歌山県御坊市・日高郡中学1年
生を対象に1995年からアレルギーの疫学調査を行っているが、最近の調査ではスギ花粉に対してその発症に必
須であるIgE抗体を保有する生徒が約半数と非常に高い値を示している。スギ花粉症の増加は医療経済にも深刻
な影を落としている。その治療にかかる直接医療費は約3000億円とされ、本疾患における労働生産性の低下な
どを間接医療費も考慮に入れれば、その損失は膨大である。
一度、スギ花粉症に罹患すると自然治癒する率は低く、報告により異なるが、0.31%~1.97%と非常に低い自
然治癒率である。現在、根治療法を目的に、種々の治療法の開発が進められつつあるが、決め手に欠けている
感は否めない。この様な背景から、現時点では、スギ花粉症にかからないように乳幼児期から発症を予防する
ことが、有用な手段と考えられる。
アレルギー疾患の成立には、遺伝要因、環境要因が複雑に絡み合っている。スギ花粉症は1963年に日光地方
で初めて発見されてから、約40年ばかりの期間に現在の有病率にまで、短期間で増加した。この様な短期間に
私たちの遺伝子が変異するとは考えられないので、この増加は環境要因によるものと考えられる。今までに考
えられてきた要因には、大気汚染の影響、荒廃したスギ林とそれに伴う飛散スギ花粉数の増加、第2次世界大戦
後の食生活の欧米化、ストレスの増加などがあるが、これらのみでは説明することは不可能である。最近、注
目を浴びているのが衛生環境の変化、つまり先進国における清潔志向、少子化、予防接種の普及、抗生物質の
乱用などによる微生物との接触機会の減少(hygiene hypothesis:衛生仮説)である。私達が日頃接触する
微生物には種々のものがあるが、その中でも腸内細菌が図抜けて多く、通常成人が持つ腸内細菌は約300種、
100兆個、重量で1kgもあるとされている。腸内細菌は非常に重要な働きをしている。2004年に先述の中学生を
対象にヨーグルト・乳酸菌飲料をよく摂るか、余り摂らないかということと各種アレルギー疾患の有病率につ
いて検討したところ、前者にアレルギー疾患が統計学的有意差をもって少なかった。フィンランドのツルク大
学の試験では、家族にアレルギー発病歴のある妊婦の出産予定日の2~4週間前から乳酸菌のカプセルまたは偽
薬を飲用させ、出産後の子供の2歳になるまでアトピー性皮膚炎発症状況を観察した。その結果、2歳時におけ
るアトピー性皮膚炎の発症は乳酸菌摂取群で半減したと報告している。ヒト免疫系は2歳頃までに完成するが、
この時期までに、この様な予防的処置をとることでスギ花粉症の発症予防が十分可能であると考えられる。
和歌山県のスギ・ヒノキの人工樹林面積が多いことから、その有病率は全国の平均を上回っていると考えら
れている。このスギ花粉症に対処するため、長年私たちが調査し、過去の資料集積のある御坊市・日高郡地区
において、妊婦・乳幼児の環境やライフスタイルをより詳細に検討することで、発症要因をより明らかにする
ことができ、発症を予防する糸口を検索することが可能と考えている。最終目的は、和歌山県の景観である美
しいスギ・ヒノキの森と県民が共存する地域を構築することにある。この試みが成功すれば、日本におけるス
ギ花粉症対策のモデルとなり、全国に普及することにより、医療費削減に結びつけることが可能となろう。
参考文献
1) アレルギー診療ガイドライン作成委員会.鼻アレルギー診療ガイドライン.
通年性鼻炎と花粉症.ライフ・サイエンス(東京)2005.
2) Strachan: Hay fever, hygiene. and household size. BMJ
299:1259-1260,1989.
Immunol 125:112-119,2001.
3) 榎本雅夫: 衛生仮説の再評価. アレルギー53: 465-468,2004.
4) Kalliomaki M, et al: Probiotics in primary prevention of atopic disease:
a randomised placebo-controlled trial. Lancet 357:1076-1079,2001.
5) 榎本雅夫, 他:ヨーグルト・乳酸菌飲料摂取によるアレルギー発症の抑制-疫学調査から-.
アレルギー 55: 1394-1399,2006.
|